自分を活かす"気'の思想

自分を活かす"気'の思想
幸田露伴『努力論』に学ぶ
中野孝次著
発行元/集英社(集英社新書)

張る気、凝る気弛む気…。西欧流の科学・技術万能主義が行き詰まって久しい21世紀、東洋独自の「気」の思想が現代人の心を救う!
本書は、1912年に刊行された睾由轟葎の『努力論』を、中野孝次氏がわかりやすく解説したもの。幸不幸は、成功、不成功によってではなく、心の持ちよう次第で決まると説く『努力論』はすなわち「幸福論」であり、失業者の増加など、閉塞感漂う現代において、改めて読まれる価値のある"励ましの書"であると言える。
人は、自己の目標の実現に努めることによって初めて、人間としての特質が備わっていく。すなわち、努力すること自体が人間の本性なのである。そして、苦しみに耐え、工夫を重ねて、自己の欠点を直す、そのように人知れず努力した者のみが、好運を招き寄せることができる。
人が努力する際には、「志」が必要である。それは、次の4つの基準を満たすものでなければならない。
①正:片寄ったり、邪道に陥ったりせず、真ん中を歩む。
②大:常に自ら自己を大きくするよう努める。
③精:何事にも注意を行き届かせ、確かなことだけを行う。
④深:何をするにせよ、深いところまで掘り下げる。
人が物事を成し遂げられるか否かは、「気」次第である。他に心を奪われて今やっていることに身が入らない「気が散る」という状態、逆に1つに集中しすぎて他に気が回らない「気が凝る」という状態では、満足なことはできない。一流に達するには、どんなつまらぬ事でも、全力で処理する習慣を身につけることが大切だ。
人にとり最も望ましいのは、「気が張った」状態である。これは、人の内にあるものが外に向かって伸び広がろうとする状態で、この時、人はどんな労苦も苦とは感じず、物事を行える。この「張る気」が生じる要因として、最も正大崇高なのは「我と我が信の一致」である。また、それまで眠っていた自分の能力を目覚めさせる「環境の変化」も、張る気を生じさせる大きな要因である。