佐藤一斎「重職心得箇条」を読む

佐藤一斎「重職心得箇条」を読む
安岡正篤著
発行元/致知出版社

人の上に立つリーダーとして心得るぺき重要なこととは何か?
重役の心構えを説いた名作、『重職心得箇条』を、安岡正篤氏がわかりやすく解説する。
本書は、『重職心得箇条』の17力条全ての原文と口語訳に、安岡正篤氏の解説を加えたものである。
『重職心得箇条』を著した佐藤一斎(1772~1859年)は、美濃の岩村藩の家老の家に生まれた。少年の頃よりその才能は群を抜いており、岩村藩主の御曹司であった林養の学友として、机を並べた。そして後に幕府の大学長となった林衡の死後、その縁により学頭を継承する。
一斎は当時、天下各藩の志ある者で、その人物、学問に傾倒し、教えを受けなかった者はいない、と言われたほど、世に大きな感化を与えた。例えば、門下生の1人に、幕末の志士である佐久間象山がいる。
一斎は、単なる学者、教育家という枠には納まりきらない人物で、自由にしてかつ風格に富む、文字通り"嶺學"と言うべき存在であった。
その彼が、自分の出身である岩村藩のために選定した"藩の十七条憲法"が『重職心得箇条』である。これは世に出た後、次第に評価が高まり、その存在を伝え聞いた諸藩が続々と使者を遣わして、この"憲法"を写させてもらったという。
ところが、それほど各方面に影響を与えたにも関わらず、明治時代以降はすっかり世に忘れられた形となった。その結果、自然と『重職じ得箇条』の原稿も行方知れずとなってしまった。それが、大正時代になって、偶然に東京帝国大学の蔵書の中から発見され、改めて識者の注目を集めるようになった。
『重職心得箇条』では、「国政をあずかる重要な職務にある者はかくあるべし」ということが、実に淡々と、極めて平明な調子で17力条にわたって説かれている。聖徳太子の十七条憲法にも劣らない名作である。