仕事のなかの曖昧な不安
著者:玄田有史
発行:中央公論新社
玄田有史氏は1964年生まれで、東京大学経済学部を卒業し、学習院大学専任講師、助教授を経て、現在、同大学教授。そ
の間、ハーバード大学、オックスフォード大学などで客員研究員を務め専攻は労働経済学です。
自分の仕事はこれからどうなるのか?所得の格差は広がっていくのではないか?仕事をめぐる「曖昧な不安」の本質を、客観的な事実に照らして明らかにしてくれています。
何が原因なのか、一体どうなるのかよくわからない仕事における、そんな「曖床な不安」が広がりつつあり、雇用問題もそのひとつで、中高年の失業が深刻視されていますが、他方、若年の失業についてはさほど深刻に捉えられていないのです。若年の失業の多くが、働くのが嫌で辞めた「自発的失業」とされているからなのです。しかし実際は違い統計データを見る限り、特に若者の就業意識が低下したということは言えないというのです。
新規学卒就職者のうち3年以内に退職する者の割合が高いが、その原因は「新卒市場の環境悪化」にあり、卒業前年の失
業率が高くなると必然的に就職機会が減り、多くの者が自分の志望する会社以外の会社に就職せざるを得なくなりその結果、やりがいや満足を得られる仕事に出会う機会も減り、些細な不満などで簡単に転職してしまうのだというのです。
90年代以降、急速に悪化する若年の就業問題の原因として見落とせないのが、中高年雇用の「置換効果」で、45歳以上の社員の比率が高まった大企業ほど、新卒採用の求人が大幅に減っているが、このように中高年がすでに得ている雇用機会を維持する代償として、若年の就業機会が奪われているのだというのです。
「格差拡大」の懸念も、曖昧な不安のひとつですが、多くの人が「貧富め差が広がっている」と感じているにも関わらず、統計データには所得格差を示す証拠は見当たらないのは、今起こっているのが賃金格差ではなく、同一の賃金でありながら仕事内容に差がある「仕事格差」だからだというのです。
個人の能力評価をオープンにしていこうという、「成果主義」の導入に対する不安も強まっていて、成果主義の成否のカギを握っているのは「仕事の明確化」、そして企業による「能力開発」の機会の積極的な拡大であるというのです。