脱所有社会の衝撃
著者:水木楊
発行:PHP研究所
水木楊氏は1937年に中国上海布生まれ、自由学園最高学部を卒業後、日本経済新聞社入社し、ロンドン特派員、ワシントン支局長、外報部長、取締役論説主幹などを経て、97年退社し、作家活動に専念し『2003年の「痛み」』『東京独立共和国』
『田中角栄その巨善と巨悪』などの著書があります。
今、新石器革命、産業革命、IT革命に続く第4の革命、「時間革命」の波が到来していると本書は説く。今後はモノでなく時間に価値を置く、「時間長者」こそが人生の勝利者となるというのです。
いわゆる"失われた10年"は、日本社会全体が"喪失"したことを示すのではなく、既得権益で生きてきた権力社会の人々の失墜を意味するものでしかない。実際には、非権力社会から新たな価値観が生まれてきている。モノやカネではなく「自分らしい時間を得ることに力を注ぐ」という価値観である。これから日本は、モノを所有することの意味が薄れる「脱所有社会」に向かっていくというのです。
そこでは、商品を所有することでカネが動く「商品経済」から、機能を利用してからカネが動く「機能経済」へのシフトが進んで
いき、この機能経済化が進むと、モノを所有することはむしろ自分の選択肢を狭める結果になり、リースやレンタルを合理的に活用することが賢い生き方になっていくというのです。
機能経済における成長ビジネスは、「五コウー楽」という言葉にまとめることができるというのです。すなわち、末尾に「コウ」の付く「健康」「旅行」「学校(教育〉」「代行」「不幸(葬儀など)」、そして「楽(エンターテインメント)」で、さらにこの分野に限らず、これからのビジネスには「顧客の時間を奪わない(または節約する)」ことや、「時間を楽しみたいという人々の願望を満たす」ことが不可欠となるというのです。
このような変化の波を捉える上で大きなヒントとなるのは、人々が「時間を志向する動機」であり、それは、「和稀安楽」という言葉に集約され、すなわち「和」とは他人との交流、「稀」は自分だけの贅沢な時間を過ごしたいという欲求、「安」は安心や安らぎ、「楽」は楽しさのことだというのです。
これからの社会で豊かさを目指すには、モノの所有から「時間本位の生き方」に価値観を転換する必要があり、時間が最も価値のある財になるのは、時間を自分の選択に基づいて有効に使う時であり、この意味での「時間長者」こそが人生の勝利者になるというのです。