キヤノン高収益復活の秘密

キヤノン高収益復活の秘密
日本経済新聞社編

バブル後の不況に苦しむ企業が多い中、キヤノンは、御手洗冨士夫社長の"強力なトップダウン"のもと様々な改革を行い、高収益を上げている。
キャノンの改革の特色のひとつは「キャツシュフロー経営」の徹底で、95年に社長に就任した御手洗社長はまず、パソコン、FLC(強誘電性液晶)ディスプレー、電子タイプライターなどの不採算事業からの撤退を断行した。また研究開発についても、採算に合わない研究開発は中止する「研究開発の棚卸し」を実行した。
キャッシュフロー経営の観点に立てば、右肩上がりの時代が終わった今日、少品種大量生産を行うベルトコンベア方式は小回りがきかず、デメリットの方が大きい。そこで、キヤノンでは98年に多品種少量生産を行うことのできる「セル生産方式」を導入、以後、わずか2年でほぼ全ての生産拠点に普及させ、キャッシュフローを劇的に改善した。
キヤノンでは80年代後半から肥大化した事業部が"企業内企業"的存在となり、"全体最適"ではなく"部分最適"を優先するようになり始めた。そのため98年、8つの専門委員会からなる「経営革新委員会」を設置し、「縦割り」でビジネスを行う事業本部に「横串」を通す。各専門委員会の委員長に縦割り事業のトップを据えることで、縦割り組織の抵抗を抑えることに成功した。
「キヤノン改革」を特徴づけるのは、トツプダウンやキャッシュフロー経営など米国流の手法を取り入れる一方で、終身雇用制をそのべ一スに据えている点である。御手洗氏が終身雇用制にこだわるのは、"終身雇用による運命共同体意識が社員の団結力になり、企業の競争力を引き上げる"との信念があるからだ。しかし、ただ雇用を保証するだけでは社員に甘えが出るため、年功序列を排し、実力主義を徹底することでそのバランスをとっている。