図書館の女王を捜して

「図書館の女王を捜して」
新井千裕著
講談社

新井千裕という作家は90年代に本を出版したのだが、2005年に8年ぶりに「恋するスターダスト」を出版して、新作はなんと4年も空けたのです。
新井千裕の魅力は、現実感の希薄さて、ポップで洒落てて、でもどこかたよりないといったちょっとおかしな登場人物たちの、ちょっとおかしな行動と、ちょっとおかしな事件の数々が登場するストーリーなのです。
本書は本と死者をめぐる癒しのミステリーなのだそうだ。一年前、交通事故で妻が死んでしまったのだが人間いつ死ぬかわからないという面倒なことが一切いやになった俺は会社を辞めたのです。定収入は祖父の遺した借家の家賃くらいなのです。仕事もせずにだらだら暮らす毎日を反省し、突然思い立って便利屋を始めることにして図書館の掲示板に貼り出したのだが、最初に迷い犬を捜したくらいで、以後は仕事依頼はなく、自分でもそんな貼り紙を出したことも忘れていた位なのです。
そんなある日、奇妙な依頼を受けることになるのですが、なんと絵のモデルになって欲しいというではないですか。
なんと描かれたのは、霊の似顔絵で、依頼人の女性サチエの、死んだ夫だという。夫ヒロミチは生前僕が死亡したらこのひとに憑くから君はこのひとと再婚しなさいといっていたというのだ。この人即ち俺を見ることができるという似顔絵画家は、もうひとり、俺の祖父の似顔も描いてみせたのです。祖父は守護霊となっているというのです。
霊を見ることができ会話ができるという霊能力者が何人も登場して、霊が主張して、もちろん生者も思うところがあるし、話はこっちに転びあっちに転び。俺の借家の店子である盲目の青年明はその執事なのです。ヒロミチの友人だったヤガミ。すでに死んでいるヒロミチ。俺の妻。妻がかわいがっていた犬のパピ。右往左往…。
重要な小道具が蝶の栞。白い蝶が栞の上部についている。妻はこの栞に香水を染みこませ、図書館の文学全集にはさんだ。その棚の本を制覇した記念に。香水も重要。ホワイト・ローズ。