「バカの壁をぶち壊せ!/正しい頭の使い方」
◇日下公人・養老孟司著
◇ビジネス社
◇1.400円(本体)
養老孟司氏の「バカの壁」はすでにベストセラー入りを果たしています。
ここでいうバカというのは、“けなし言葉”ではなく、「真実を見極める目を
もたない。与えられた情報を盲信する人」の事をいうようです。
この「バカの壁」を題材にした経済のプロ日下公人氏との対談がこの本の内容
になります。
一見読むとかなり過激な発言もあるのですが、実際には自分の無知な、まさに
「バカ」な部分を明確にしています。
例えば最近よく話題にされる「失業率の問題」。
日下氏曰く「5%を超えたからって、世の中急に悪くなるわけはありません。
(笑)お茶を飲むとき熱かったら口の中をヤケドします。飲めるか、吐き出す
かの分かれ目は明確にあるんですが、失業率にそんなものはありません。」
(第一章経済学者を決して信じてはいけない)
確かに私達は、テレビなどで「失業率が1%増加」などの記事を見ると「景気
が悪くなった」と思ってしまいますが、実際のところ「急に悪くなるわけでは
ない」のは確かです。
少なくとも、今の段階で大騒ぎする必要がなくなるわけです。
これが「バカの壁」をぶち壊す事になりそうです。
「自分の理解力が不足している事を理解して、自他の理想的な関係を築くこと」
というのは簡単なようで難しいものです。往々にして自分に不足している部分
を理解している人が少ないことも一つの要因です。
例えば、ビジネスマンが気になる「お金の統計」に関してもこの著書の中では
「1割くらいは怪しい」といっています。
確かに自動車会社などでは期末に100台のノルマがあった場合、売ったことにし
て翌朝買い戻す、などということもあります。
養老氏は「だいたいの数字は、みんな一割ぐらいは誤差の範疇内なのです。」
と言い切ります。
この見極めがついているかどうかで、自分の理解力のなさを計る事ができるか
もしれません。
「第三章 脳からみた世界と日本の病状」では、日本語の成り立ちからさかの
ぼり、いわゆる「知識人」には敬遠されがちなマンガにまで触れています。
「日本社会を今日まで発展させたのはマンガである」
この中では「日本人が黙読を得意なのも、脳を広く使っているから」と医師ら
しい科学的な見地での考察もあります。
中でもマンガは絵と文字を同時に使うことで「その図形に音声をふったもの」
でありそれが脳の違う部分を使っているという事になるそうです。
失語症で漢字が読めなくなった患者さんにマンガを渡すとマンガの絵が意味を
もった図形としてとらえられないために「面白くない」という反応が返ってく
るそうです。
確かに、同じ主人公の同じ台詞でも笑顔なのか、悲しい顔なのかによってその
台詞の意味は大きく違います。
日本人はマンガというツールでその力を磨いているということになりそうです。
そのマンガも収益でいえば、国際規模の産業になってきています。
「文化・娯楽産業でいえば日本の未来は明るい」(日下氏)
なぜエコノミストや経済学者の経済予測は当たらないのか。
最近のインフレ・ターゲット論争に見られるように、型どうりの方法で経済を
コントロールできると考えてしまうのはどうしてなのか。
現実の経済は予想したとおりには展開していきません。
一企業あるいは一国だけの思惑どおりに動くことはありえないとお二人は語っ
ています。
経済とは儲けたいとかお金を稼ぎたいという人間の欲望や思惑で動いているも
のです。そこには理性もあるはずですが、人間の本能とか心理が大きく関係し
ています。
不況だ、不況だと言われて久しいですが、実際は丸ビルや六本木ヒルズは大勢
の人で賑わっています。高級ブランド品も飛ぶように売れています。
「企業の接待費がカットされて、会社員が飲みに行かなくなっているから、飲
み屋が不景気だというのは分かります。でも、東京のあちこちには次々と高層
ビルが建っています。丸ビルに行くと、どこの店も混んでいますし、有名なレ
ストランのランチは一年後まで予約がいっぱいだそうです。日本は本当に不景
気なんでしょうか」
話は経済にとどまらず、両氏の対談はマンガの次は戦争と限りなく広がります。
そして最後には身の回りの一番小さな共同体「家族」の話となります。
養老氏は、日本経済の実体についてこう語っています。
「人間の心理にまで踏み込まないと、物事の本質が見えてこないとではないか。」
自分について深く考えさせられる一冊です。