「新しい人」の方へ
◇大江健三郎/著
◇朝日新聞社
◇1,200円(本体)
この本は、ノーベル賞作家、大江健三郎氏のエッセイです。
「週刊朝日」で連載されていたエッセイの単行本化ですが、大人も子供も楽し
んで読むことの出来る良質なエッセイと言っても過言ではないでしょう。
そもそも、この本はベストセラーとなった前作のエッセイ「『自分の木』の下
で」(2001年7月発行/朝日新聞社)の第二弾。
本書でも現代に生きる大江氏と子供の頃の大江少年、現在と過去を行き来し、
実生活、実体験から得たこと考えたことを読者に解りやすく伝えてくれます。
障害を持って生まれた長男、光氏を中心として回る家族の輪、家族の絆。
そして、そこから得た喜びと希望。
子供時代の大江氏と彼の父親との会話、大江氏の両親の会話、大江氏の受けた
イジメの話、ノーベル賞を受賞したことから得た経験談など。
その他、大江氏が読者に語る多くの実体験から、私たちは私たちの生活にとっ
て必要なこと、習慣付けたいこと、しいては人生について必要なこと、生きて
いく上で必要な力とは何か、を学ぶことができるでしょう。
また、大江氏は例を挙げ、若い読者が今、解いていかなくてはならない問題を
提議します。
そして、若い読者はそれらの問題をこえて、「伸びてゆく素質を持ち続けてい
くことだろうと信じる」と結びます。
大江氏から若者へのエール、まるでこれからの未来を担う若者にこそ響いて欲
しい激励の言葉のようです。
本書を通して、読者に向き合い語りかける大江氏の姿を、読者は感じることが
できるはずです。
終わりに、著者、大江氏は本書を作ろうと思い立った時のことを、次のように
述べています。
「もうひとつの本を作ろう、と思いたった時、私は新しい方針を立てました。
この本を読んでくださる人たちへのメッセージのもとになるものをまずはっき
りさせよう、そして書き始めることにしよう……」と。
子供から大人まで、幅広い読者に投げかけられた大江氏の15のメッセージを
貴方はどのように感じ、受け取るのでしょうか。
なお、イラストは大江夫人、ゆかりさん。柔らかくも温かい絵が読者の心を和
ませ、大江氏の文章に花を添えています。この本は「大江夫妻の合作エッセイ」
と言っても良いかもしれません。
また、読書家の大江氏らしく、本書内では様々な本の紹介もされています。
テーマに沿った本をその都度、提示してくれているので、これらの本を一読す
ることも、本書をより深く楽しむ手段の一つでしょう。
本書から「新しい人」になる方法を読み取り、「新しい人」の方へと一歩進み
出してみてはいかがでしょうか。