「生涯最高の失敗」

「生涯最高の失敗」

 ◇田中耕一/著
 ◇朝日新聞社
 ◇1,200円(本体)


青天の霹靂、想像を範疇を越えたストレスフルで混乱の多い多忙な毎日だったうえに、田中氏は憤りや戸惑いに苛まれていました。
心身の疲労に耐えながら一時は、真剣に海外移住まで考えたほどだと、田中氏は本書の中で語っています。
時間が過ぎていく中、田中氏は「理系人間は自分を理解してもらう努力が不足している」という主張に基づき、逃げるばかりではなく、それを実践しなければならないのではないかという思いを抱いたそうです。
第一部の「エンジニアとして生きる」は、ノーベル化学賞を受賞するに至った背景や、エンジニアとして働く田中氏の実際の仕事や暮らしぶり、そして思うことなどが、生い立ちを絡めながら簡潔に書かれています。
日の様子なども詳しく書かれ、ものづくりの重要性や人との出会いの大切さについても綴られています。
ストックホルムにあるノーベル博物館の館長、スヴァンテ・リンクヴィスト氏によって人が独創性を発揮するために九項目と創造性を育む環境の十の特徴について触れ、田中氏自身の創造性や独創性の源について語り、第一部を締め括っています。
高度且つ難解な演題を、わかりやすく説明されています。
そのため、化学の分野から疎遠である一般の方にもこの発見の素晴らしさが伝わりやすく、田中氏のお人柄にも触れることができる内容になっています。